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聖ヨハネと男性聖人を伴う「長い首の聖母」のための習作、左に向かって歩く男性 / Study for the "Madonna dal collo lungo" with the Infant St. John and a Male Saint; a Man Walking to the Left

パルミジャニーノ (本名フランチェスコ・マッツォーラ) / Parmigianino (Francesco Mazzola)

この作品、「聖ヨハネと男性聖人を伴う「長い首の聖母」のための習作、左に向かって歩く男性」について、以下の項目に沿って詳細に説明します。

1.背景・経緯・意図

この素描は、パルミジャニーノの代表作である油彩画「長い首の聖母」(フィレンツェ、ウフィツィ美術館所蔵)のための習作と考えられています。パルミジャニーノは、マニエリスム様式を代表する画家の一人で、「ラファエロの再来」と称されるほどの才能を持ちながら、37歳という若さで亡くなりました。彼は、ルネサンスの巨匠たち、特にラファエロから強い影響を受けつつも、自然を凌駕する優美で洗練されたスタイルを追求しました。

「長い首の聖母」は、パルマの貴族エレナ・タリアフェーリの依頼により、彼女の夫が埋葬されたサンタ・マリア・ディ・セルヴィ聖堂内の礼拝堂のために1534年末に制作が開始されました。パルミジャニーノは6ヶ月で完成させる契約を交わし、前払いも受け取っていましたが、他の仕事のトラブルや錬金術に傾倒したため、作品は未完成のまま残されました。

この素描は、画家が油彩画の構図や人物のポーズ、配置などを試行錯誤する過程で描かれたものです。特に、錯綜する線からは、画家の試行錯誤の跡が見て取れるとされています。油彩画の「長い首の聖母」では、聖母、幼子イエス、聖ヨハネがS字型の構図で配置されていますが、この習作では、聖ヨハネと男性聖人を伴い、左に向かって歩く男性の姿が描かれており、油彩画の最終的な構図に至るまでの過程を垣間見ることができます。左端の人物像は、別の作品のための習作である可能性も指摘されています。

2.技法や素材

作品詳細に記載されている通り、この習作には以下の技法と素材が使われています。

  • 技法:ペン、褐色インク、灰色の淡彩、赤チョーク。
  • 素材:紙。

褐色インクによる明確な線描で人物の輪郭や衣服のひだを描き、灰色の淡彩で明暗や立体感を加えています。また、赤チョークは下描きや、暖かみのある影、あるいは身体の表現に用いられた可能性があります。このような複数の画材を組み合わせることで、動きのある人物像の量感や空間性を表現しようとしていたと考えられます。素描は、作者の生々しい手の跡が直接的に感じられ、制作の試行錯誤の過程や作家独自のこだわりを垣間見ることができるという魅力があります。

3.意味

この習作は、油彩画「長い首の聖母」との関連性からその意味を考察することができます。油彩画の「長い首の聖母」は、マニエリスム様式の特徴である、長く引き伸ばされたプロポーション、非現実的な空間構成、そして複雑な寓意に満ちた作品です。

  • 「長い首の聖母」の構図の検討: この習作は、油彩画の左側に配される天使たちや、画面右下に描かれた聖ヒエロニムスといった人物群の配置や表現を探る目的があったと考えられます。特に、「長い首の聖母」の油彩画では、聖母の両側に同数の人物を配置するのではなく、片側に天使たちをひしめかせ、反対側には預言者(聖ヒエロニムス)の姿を大きく開けて描くという珍しい配置がされていますが、この習作はそのような非対称な構図の模索の一部であった可能性があります。
  • マニエリスム様式の表現: マニエリスムは、ルネサンスの調和や自然主義から逸脱し、意図的な誇張や抽象的な表現を追求した美術様式です。パルミジャニーノは、特に人物の身体をS字型にねじらせる「フィグラ・セルペンティナータ(蛇のような形)」の構図を好み、優雅さと官能性を表現しました。この習作においても、人物の流れるような身体の線や動きの表現は、マニエリスム特有の優美さを探る試みであったと解釈できます。
  • 宗教的寓意(油彩画との関連): 油彩画の「長い首の聖母」では、聖母の長い首はリタニアの「象牙の塔」という表現を象徴し、聖母マリアの神聖性と純潔を表しています。また、右手に描かれた円柱も聖母の象徴です。左手に天使が持つ十字架の描かれた銀の壺は、聖母の純潔な子宮と、幼子イエスの受難を暗示していると解釈されています。この習作に描かれた人物像も、同様に宗教的な文脈における象徴的な意味を帯びている可能性があります。

4.評価や影響

この習作自体への具体的な評価や影響に関する情報は見当たりませんが、それが習作となった「長い首の聖母」および画家パルミジャニーノが美術史に与えた影響は非常に大きいものがあります。

  • 「長い首の聖母」への評価と影響: 「長い首の聖母」は、マニエリスム絵画の最高傑作の一つとされ、その優美さと革新性が高く評価されています。聖母の極端に引き伸ばされた首や、不安定な幼子イエスの描写、左右非対称な構図など、奇妙で謎めいた点が多く、未完成であるという説もあります。しかし、これらの特徴こそが、ルネサンス芸術の枠を超え、新たな視覚的体験を提供するマニエリスムの頂点を示すものとして、後世の芸術家や批評家たちに多大な影響を与えました。
  • パルミジャニーノの評価と影響: パルミジャニーノは、マニエリスム第一世代の筆頭画家の一人として、その優美で洗練されたスタイルを確立し、後世の画家たちに大きな影響を与えました。彼はまた、エッチングの技術を改良し、イタリアの印刷分野の発展にも大きく貢献しました。彼の素描は、デューラー、ルーベンス、レンブラントといった巨匠たちの作品とともに、スウェーデン国立美術館の貴重なコレクションの一部をなし、彼の構想力と技量の高さを現代に伝えています。

この「聖ヨハネと男性聖人を伴う「長い首の聖母」のための習作、左に向かって歩く男性」は、パルミジャニーノがマニエリスムの傑作「長い首の聖母」を制作する過程で、その独特な美的感覚と構図への探求を深く示す貴重な資料と言えます。