アンドレア・デル・サルト / Andrea del Sarto
アンドレア・デル・サルト作「イサクの頭部のためのカルトン」について、詳細を説明します。
この作品は、スウェーデン国立美術館が所蔵する素描コレクションの一つで、展示会「スウェーデン国立美術館 素描コレクション展―ルネサンスからバロックまで」にて展示されました。アンドレア・デル・サルトは、盛期ルネサンス期のイタリア、フィレンツェで活躍した画家であり、この時期のフィレンツェ最後の主要な画家の一人とされています。
どのような背景・経緯・意図で作られたのか? この作品は、アンドレア・デル・サルトの最も重要な絵画の一つである「イサクの犠牲」のために制作された、原寸大下絵(カルトン)の断片です。 「イサクの犠牲」は、旧約聖書創世記に記された、アブラハムが神の命令により息子イサクを犠牲にしようとする信仰の試練を描いた劇的な主題の作品です。 「イサクの犠牲」の絵画(ドレスデン版)は、1527年頃にジョヴァンニ・バッティスタ・デッラ・パッラによって、フランスのフランソワ1世への贈り物として依頼されました。 この絵は、ルーヴル美術館にある「カルデアの慈善」の対作品として意図されていました。 アンドレア・デル・サルトは「イサクの犠牲」の主題で3点のバージョン(ドレスデン、クリーブランド、プラド)を制作しましたが、中でもドレスデン版が最大で最も完成度が高く、フランソワ1世のために描かれたと考えられています。 しかし、この絵は最終的にフランソワ1世には届けられず、アルフォンソ・ダヴァロス侯爵によって押収されました。 カルトンは、より大きな構図の絵画を制作するための準備段階の素描であり、画家が顔の表情や解剖学に細心の注意を払っていたことを示しています。 この作品のサイズは、ドレスデン版の「イサクの犠牲」におけるイサクの頭部の寸法と正確に一致しています。
どのような技法や素材が使われているのか? この作品は、紙に黒チョーク、淡彩、そして白のハイライトを用いて描かれています。 「カルトン」とは、絵画の構図を準備するための原寸大の素描を指します。 この素描は、絵画への転写のために線が刻み込まれており、チョークが厚く重ねられ、表面は擦れて光沢を帯びており、カルトンに典型的な特徴を示しています。 未完成のクリーブランド美術館版「イサクの犠牲」からは、アンドレア・デル・サルトが素描からパネルにデザインを転写し、チョークの線を彩色された線で補強するという制作過程が見て取れます。
どのような意味を持っているのか? この「イサクの頭部のためのカルトン」は、アンドレア・デル・サルトが絵画「イサクの犠牲」におけるイサクの頭部の表現に対して、どれほど入念な準備と細部にわたる検討を行ったかを示すものです。 イサクの顔の表情と解剖学への緻密な描写は、アブラハムの信仰の試練という主題が持つ悲嘆、強さ、諦め、恐怖、そして悟りといった複雑な感情を表現するために不可欠でした。 この素描自体が、完成された絵画の一部としてではなく、芸術家の制作過程とその深い思考を示す重要な資料となっています。
どのような評価や影響を与えたのか? この素描は、アンドレア・デル・サルトの「最も重要な絵画」の一つである「イサクの犠牲」のためのオリジナルのカルトンの断片として評価されています。 彼の作品は、顔の表情や解剖学への細心の注意を払うことで知られています。 アンドレア・デル・サルトは、ミケランジェロやラファエロがローマで活躍し、芸術の中心がフィレンツェからローマへ移る中で、生涯をフィレンツェで過ごしながらも、当時のフィレンツェで最も影響力のある画家の一人となりました。 彼の作品は、古代彫刻やミケランジェロから着想を得た、父と子の複雑な感情表現(悲嘆、強さ、諦め、恐怖、悟り)を融合させている点で評価されています。 この作品が収蔵されているスウェーデン国立美術館の素描コレクションは、カール・グスタフ・テッシン伯爵のコレクションがもとになっており、彼の美的センスと歴史的な価値を示しています。 このカルトンは、盛期ルネサンスの巨匠がどのようにして大作を構想し、細部を練り上げていったのかを伝える貴重な手がかりとして、現在も研究者や美術愛好家に影響を与え続けています。