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ニンニュルキ (Nyinyilki)

マーディディンキンガーティー・ジュワンダ・サリー・ガボリ (Mirdidingkingathi Juwarnda Sally GABORI)

マーディディンキンガーティー・ジュワンダ・サリー・ガボリの作品「ニンニュルキ」について詳細に説明します。

背景・経緯・意図

マーディディンキンガーティー・ジュワンダ・サリー・ガボリ(1924年頃–2015年)は、オーストラリア北部のカーペンタリア湾に浮かぶベンティンク島のカイアディルトと呼ばれる先住民コミュニティ出身の芸術家です。彼女は80歳を超えた2005年から絵画制作を開始し、亡くなるまでの約10年間で2,000点以上もの作品を制作しました。ガボリが24歳の時、干ばつとサイクロンにより故郷のベンティンク島が壊滅的な被害を受け、住民は近くのモーニントン島への強制移住を余儀なくされました。彼女は故郷から離れて暮らすことを強いられましたが、心の中では常に故郷を思い、家族とともに歌を歌い、カイアディルトの文化を維持し続けました。

「ニンニュルキ」は、ガボリの主要な絵画主題の一つであり、彼女の作品群において重要な意味を持つ場所です。ニンニュルキは、ベンティンク島南東海岸にある、スイレンが点在する淡水のラグーン(礁湖)の名称です。カイアディルトの人々は土地の権利回復闘争の末、ニンニュルキに一時的な居住地である「アウタステーション」を設立し、「メインベース」や「メインキャンプ」として参照されました。ガボリは、移住後も可能な限りこの故郷に戻り滞在していました。彼女の作品は、同化政策によって長年住んでいた土地を奪われた彼女や家族の物語が、晩年になって視覚的に爆発し、強い創作意欲につながったと言われています。絵画制作を通じて、彼女は失われた故郷の土地や、そこで過ごした記憶や経験を鮮やかに表現しようとしました。

技法や素材

「ニンニュルキ」は、2011年に合成ポリマー絵具と麻布を用いて制作されました[作品詳細]。ガボリは80歳を過ぎて初めて絵筆を握り、西洋美術教育を受けることも、カイアディルトに伝わる伝統的な図像や象徴などの視覚表現を参照することもありませんでした。このため、彼女はアートに対する先入観を持たない独自の表現を生み出したと言われています。

彼女の絵画は、大胆で色彩豊かな抽象表現が特徴です。ウェットな絵具をキャンバス上で混ぜ合わせることで色彩の濃淡を生み出し、陸から海への移行など、ベンティンク島の地質的、生態学的な変化を表現しました。また、硬質な色彩のコントラストは、古代の石壁の魚捕り網や海岸線の崖など、数千年もの間変わることのない構造物を描写しています。キャンバスの表面で濡れた絵具を混ぜ合わせ、余分な絵具を縁に押し出すような彼女の制作方法は、絵画作品のテーブルから見て取ることができます。彼女は絵を描くとき、しばしば笑い、歌いながら、描いている人や場所を懐かしんでいたと伝えられています。

意味

ガボリの作品は色鮮やかで抽象的ですが、その全てが故郷ベンティンク島を主題としています。彼女は、失われた故郷の土地、そしてそこで過ごした経験や記憶を絵画に込めて表現しました。カイアディルトの人々には、アートやデザインを作る伝統がなく、装飾を施す文化もほとんどありませんでしたが、ガボリの絵画は、愛、喪失、憧れ、そして自分自身の特別な居場所を持ち続けるという、彼女自身の心から生み出された普遍的な視点を表現していると評価されています。

「ニンニュルキ」は、ベンティンク島にあるスイレンが豊富な淡水のラグーンを指す地名であり、ガボリの祖先の故郷である場所です。彼女のこの場所の描写には、ラグーンそのものに加え、半円形の石壁の魚捕り網や湾の砂州、西側の崖、そしてマナティが浅瀬で餌を探す際に残す足跡や痕跡がしばしば含まれます。作品名は「ニンニュルキ」ですが、ガボリの作品には、ミディディンキ、ディバーディビ、ディンカリ、マカッキ、トゥンディ、そしてニンニュルキという6つの主要な主題があり、これらはすべてベンティンク島とその周辺の島々の特定の場所を対象としており、彼女の家族の名前の由来ともなっています。彼女はこれらの場所を何百回も描くことで、愛する人々や場所の記憶を追体験しました。

評価と影響

サリー・ガボリは、80歳を過ぎてから絵画制作を始めたにもかかわらず、瞬く間にオーストラリアを代表する現代アーティストの一人として認められるようになりました。彼女の作品は、その鮮やかな色彩と表現豊かなスタイルで、美術界の想像力を捉えました。

2016年から2017年にかけて、クイーンズランド州立美術館とヴィクトリア国立美術館で大規模な回顧展「Mirdidingkingathi Juwarnda Sally Gabori: Dulka Warngiid – Land of All」が開催され、彼女の評価はさらに高まりました。2022年にはパリのカルティエ現代美術財団で、2023年にはミラノのトリエンナーレデザイン美術館で回顧展が開催され、ヨーロッパで初めて彼女の作品が紹介されました。

ガボリの作品は、多くのアボリジナル・アートが語り継ぐ伝統的な図像とは異なり、自由な筆致と鮮やかな色面、硬質なエッジを持つフォルムで、故郷から離れた場所での生活における感覚や文化的な記憶を表現しました。彼女の影響力は大きく、カイアディルト族の女性たちが刺激を受けて絵を描き始めるきっかけにもなりました。彼女はカイアディルトの人々の物語を世界に伝え、その作品はオーストラリアからパリまで、世界中のギャラリーやコレクションで称賛されています。

現在、アーティゾン美術館で開催されている「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」展でも、ガボリの色彩豊かな絵画作品が展示され、展覧会を締めくくる作品群として紹介されています。この展覧会は、アボリジナル女性作家に焦点を当てた日本初の機会であり、ガボリのような作家の存在が、現代アボリジナル・アート、そしてオーストラリア現代美術の方向性を形作る上でいかに重要であったかを考察するものです。