マーディディンキンガーティー・ジュワンダ・サリー・ガボリ (Mirdidingkingathi Juwarnda Sally GABORI)
マーディディンキンガーティー・ジュワンダ・サリー・ガボリの作品「キング・アルフレッド・カントリーのストーリーを伝える場所」についてご説明します。
この作品は、ガボリが自身のルーツである故郷の土地と、そこにまつわる家族の記憶、そして文化への深い愛を表現したものです。ガボリはカイアディルト族の女性で、およそ1924年にカーペンタリア湾のベンティンク島で生まれました。彼女は最初の23年間を、伝統的な生活様式の中で過ごしました。しかし、1948年に干ばつや嵐、高潮などの自然災害が続き、彼女のコミュニティは宣教師によって近くのモーニングトン島へ強制的に移住させられました。これは「強制された亡命」と表現されています。彼女は故郷から離れた場所で人生の大半を過ごすことになりますが、常にベンティンク島を心に抱き、家族と共にその歌を歌い、カイアディルト族の文化を守り続けました。
絵画制作を始めたのは2005年、彼女が81歳の時でした。それまで絵筆を握った経験はほとんどなく、またカイアディルトの人々には視覚芸術の伝統がなかったため、彼女の画業開始は非常に珍しい出来事でした。彼女の意図は、およそ60年間離れていた故郷ベンティンク島の「カントリー(土地)」の物語を語り、愛する人々や場所の記憶を追体験することにありました。この作品のタイトルにある「キング・アルフレッド・カントリー」は、彼女の兄であるカイアディルトの偉大な指導者、マッカーキンガーティー・ディンカリンガーティー・トゥワス・キング・アルフレッドの土地を指します。マカルキはキング・アルフレッドが生まれた場所であり、カイアディルトの人々にとって非常に重要な場所でした。ガボリの作品は、抽象的でありながらも、自身の家族、そして土地と彼女を結びつける家族の絆について描かれた、深い参照性を持つものです。
「キング・アルフレッド・カントリーのストーリーを伝える場所」は、2006年に合成ポリマー絵具と麻布を用いて制作されました。サイズは121.0×91.0cmです。ガボリの絵画技法は独特で、キャンバス上で濡れた絵具を混ぜ合わせ、色調の変化を生み出しました。これは、ベンティンク島の地質学的、生態学的な移り変わりを表現しています。彼女は非常に素早く制作し、明るい色の上に白い筆致を重ね、絵具が乾ききる前に混ぜ合わせることで、力強い表現を生み出しました。彼女の作品に見られる平面的な単色の配置や、何層にも重ねられた色彩は、塩田、カジュアリーナの木々、マングローブ、そして石でできた魚の罠といった故郷の様々な要素を想起させます。
この作品は、物理的な分離にもかかわらず失われることのなかった故郷への深い繋がりを表現する、故郷の賛歌です。抽象的ながらも、彼女の絵画は「そこに属していた人々の肖像画」とも言えます。作品は、土地、物語、記憶、そして家族への追想であり、喜びとほろ苦さが同時に感じられるものです。キング・アルフレッド・カントリーであるマカルキは、「大きな川が流れ、満潮時にはジュゴンやカメが来る、特別な場所であり、男性たちが捕獲しやすい場所」とガボリ自身が語っています。カイアディルトの命名法では「ングアティ」という接尾辞が「〜で生まれた」という意味を持ち、人々を土地に不可分に結びつけます。
ガボリは80代で絵画を始めたにもかかわらず、すぐにオーストラリアを代表する現代アーティストの一人として認められました。彼女の独自なスタイル、ヴィジョン、そして物語は、美術界の想像力を捉えました。彼女の作品は、現代的でありながらも、祖先の土地に対する伝統的な理解に深く根ざしていると評されています。2025年にアーティゾン美術館で開催される「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」展は、複数のアボリジナル女性作家に焦点を当てる日本で初めての機会であり、ガボリのような女性アーティストが国際的な現代美術の舞台で存在感を高めていることを示しています。この展覧会は、アボリジナル・アートがいかに伝統文化を体現し、脱植民地化を実践し、創造性を通じて多層的な現代美術を形成しているかを考察することを目的としています。