マーディディンキンガーティー・ジュワンダ・サリー・ガボリ (Mirdidingkingathi Juwarnda Sally GABORI)
マーディディンキンガーティー・ジュワンダ・サリー・ガボリの作品「私のカントリー」について詳細に説明いたします。
作品の背景、経緯、意図
マーディディンキンガーティー・ジュワンダ・サリー・ガボリは、およそ一九二四年、クイーンズランド州カーペンタリア湾に位置するベンティンク島でカイアディルト族として生まれました。彼女は一九四八年まで伝統的な生活を送っていましたが、干ばつや嵐、高潮といった自然災害により、カイアディルトの人々は近隣のモーニントン島にある長老派教会伝道所に移住を余儀なくされました。故郷から離れておよそ六十年後の二〇〇五年、八十歳を過ぎてからガボリは初めて絵筆を手にし、画家としてのキャリアをスタートさせました。
彼女はそれまで絵画に触れる機会がほとんどありませんでしたが、モーニントン島のアートセンターで行われたワークショップで絵を描き始めました。 絵を描くことは、故郷を追われながらも心に抱き続けていた自身の物語を表現する自由な手段となりました。 彼女の作品は、故郷であるベンティンク島の地形、場所、特徴、そしてトーテムといった、彼女自身、家族、そして彼女の「カントリー」にとって深い意味を持つ要素を描いています。 ガボリは、愛する人々や場所の記憶を呼び起こすため、また「私のカントリーを見せたい」という思いから、生涯で二千点を超える作品を制作しました。 本作「私のカントリー」は、彼女の生まれた地、ミルディディンキを称える作品群の一つです。
作品に用いられた技法や素材
本作「私のカントリー」は、合成ポリマー絵具がキャンバスに描かれています。ガボリは、力強く表現豊かな、鮮やかな色彩による独自のスタイルで知られています。 彼女は濡れた絵具をキャンバス上で混ぜ合わせ、濃淡の変化やジェスチャー的な筆致を生み出しました。これにより、陸地から海への移り変わりなど、ベンティンク島の地質学的・生態学的な変化が表現されています。
また、彼女は大胆でエッジの効いた形と鮮やかな色彩のコントラストを用いて、何千年もの間変わることのない古代の石造りの魚の罠や、海岸沿いの崖といった自然の構造物を描きました。 彼女は「棒」(太い筆)を使い、勢いよく絵具を塗布し、乾ききっていない鮮やかな絵具の上に白い絵具を重ねるように描くこともありました。 この技法は、抽象表現に近い色彩と構図の本能的な感覚を示しています。 彼女の作品は、他の現代アボリジナル・アートの慣習とは異なる独自の美学を持っています。
作品が持つ意味
ガボリと彼女の民族にとって、「カントリー」(カイアディルト語で「すべての土地」を意味する「ドゥルカ・ワーンギード」)は、アイデンティティ、精神性、そして生存と不可分に結びついています。 彼女の絵画は単なる風景ではなく、記憶と感情の地図であり、彼女の人生と民族の物語を伝えています。
本作「私のカントリー」は、ガボリの生まれた地であるベンティンク島南部の小さな小川の地域、ミルディディンキを指すことが多くあります。 そこには潮の満ち引きがある小川、砂州、塩田、マングローブ、サンゴ礁といった地形が含まれます。また、彼女が生まれた場所、愛する人が埋葬されている場所、貝を採集する場所、キャンプ地といった文化的に重要な場所も描かれました。 カイアディルト族の伝統では、生まれた場所に関連付けて名前が付けられます(例えば、「ミルディディンキンガーティー」は「ミルディディンキで生まれた」という意味です)。これは、人々が土地と深く結びついていることを示しています。 彼女の絵画はしばしば、その土地に属する人々の肖像画でもあると言われています。
彼女の作品は、土地への深い繋がりと、故郷を追われた人々の痛みや喪失を表現しており、先住民の文化的レジリエンス(回復力)と、土地が持つ永続的な重要性についての力強い声明となっています。 色彩と形は、特定の文化的ルーツを持つ物語を表し、見る者の記憶や帰属意識を呼び起こします。
作品の評価と影響
ガボリは八十代で絵を描き始めてから、急速に国内外で高い評価を得ました。 彼女はオーストラリアを代表する現代アーティストの一人であり、過去二十年間で最も偉大な現代オーストラリアのアーティストの一人として称されています。
彼女の独自のスタイルとビジョンは、アート界の想像力を掻き立てました。 彼女の芸術は、先住民アートに関する従来の物語を打ち破り、既成概念に挑戦し、他のアーティストたちに伝統的な枠を超えて探求するようインスピレーションを与えました。 批評家たちは、彼女の絵具を扱う卓越した流暢さと、西洋美術の文脈では抽象表現と見なされる表現による色彩への成熟した魅力を指摘しました。
彼女の作品は、オーストラリア国内および国際的に多くの主要な展覧会で展示され、大規模な個展も開催されています。 ガボリは、カイアディルト語、伝統、物語の最後の継承者の一人であり、植民地化以前の先住民文化と生きた繋がりを持つ存在でした。 彼女の成功はモーニントン島に経済的恩恵をもたらし、特に若い世代に希望と機会を創出し、人々の生活を変えました。 彼女の家族は、子孫たちの教育を支援するために、作品の将来的な収益を投資しています。 現在、アーティゾン美術館で開催されている「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」展は、アボリジナル・アート、特に女性アーティストたちの作品に対する世界的な認識の高まりを明確に示しています。