マリィ・クラーク (Maree CLARKE)
マリィ・クラークの作品「ポッサムスキン・クローク(Walert - gurn barerarerungar: Tipperary, Ireland Dunstable, Britain Yorta Yorta Trawlwoolway Boonwurrung, Mutti Mutti, Wamba Wamba)」について詳細を説明します。
どのような背景・経緯・意図で作られたのか? アーティストのマリィ・クラークは、オーストラリア南東部のアボリジナル、ヨーラ・ヨーラ、ワンバ・ワンバ、ムッティ・ムッティ、ブーンウルングの血を引く女性です。彼女は30年以上にわたり、植民地化によって失われた、あるいは休眠状態にあったアボリジナルの文化的慣習を研究し、復興させる活動に中心的な役割を担ってきました。クラークの芸術活動の中心には、未来の世代のために文化を受け継いでいくという信念があります。彼女は、伝統的なポッサムスキン・クロークやカンガルーの歯のネックレスの復興を通じて、自身の文化遺産を肯定し、再接続したいという強い願望を持っています。ポッサムスキン・クロークは、19世紀のイギリス植民地化の影響で伝統が途絶えていましたが、1980年代に一部のアーティストによってこの文化を復興させようという動きが起こりました。クラークもその中心人物の一人であり、2006年のメルボルン・コモンウェルスゲームズの開会式では、他のクーリー・アーティストたちと共に、35人の長老やコミュニティ代表が着用するポッサムスキン・クロークを制作するプロジェクトに関わりました。この作品「ポッサムスキン・クローク(Walert - gurn barerarerungar)」は、彼女自身のルーツである様々な言語グループや場所へのつながりを表現するとともに、失われた文化を取り戻し、次世代へと継承する意図が込められています。作品のタイトルに含まれる地名「Tipperary, Ireland」と「Dunstable, Britain」は、クラークの曽祖父母に繋がる、アボリジナル以外のルーツも示していると語られています。これは、自身の多岐にわたる祖先とのつながりを表現するものです。
どのような技法や素材が使われているのか? この作品は2020年から2021年にかけて制作され、ポッサムの毛皮(Possum skin)が主要な素材として用いられています。サイズは221.0×405.0cmと記念碑的な大きさです。クラークの「ポッサムスキン・クローク」は、63枚のポッサムの毛皮をカンガルーの腱で縫い合わせて作られています。伝統的にポッサムスキン・クロークの内側には個人的な地図や物語が描かれ、ムール貝の殻、ポッサムの顎の骨、カンガルーの切歯などで模様が刻まれていました。しかし現代では、毛皮が化学的に鞣されているため、クローク製作者は通常、焼きごてを使ってデザインを焦がしつけます。クラークも自身のクロークでこの技法を用いています。さらに、クラークは黒、赤、緑の絵の具も使用しており、これらはワトル樹脂と黄土(土壌、岩石、粘土に見られる天然顔料)を混ぜ合わせて作られています。クラークのクロークにある7つの地図のような形は、彼女が繋がりのある異なる言語グループや場所を象徴しています。そのうち5つは、ヨーラ・ヨーラ、ムッティ・ムッティ、ワンバ・ワンバ、トラウールウェイの各国の形を表しています。
どのような意味を持っているのか? ポッサムスキン・クロークは、オーストラリア南東部の涼しい気候で暮らすアボリジナルの人々にとって、体を温めるための衣服であるだけでなく、毛布として、赤ちゃんを包むため、そして埋葬の際に故人を包むためにも使われるなど、非常に重要な文化的な意味を持っていました。生まれた時にポッサムの毛皮が与えられ、成長するにつれて毛皮が足されていき、その人の人生の物語や、国、文化、場所、家族とのつながりを示す自伝のような役割を果たしました。クロークには、身につける人のアイデンティティ、地位、場所に関する神聖なデザインが施され、その人の歴史が刻まれていきました。クラークの作品におけるクロークのそれぞれの模様は、個人的な物語であり、彼女が所属するムッティ・ムッティ、ワンバ・ワンバ、ヨーラ・ヨーラ、ブーンウルングの人々とのつながり、そして彼女の先祖が辿った旅路や経験を表しています。また、現代においてポッサムスキン・クロークは、アボリジナルの人々にとって文化的な価値が非常に高く、アイデンティティを具現化し、強化する役割を担い、家族やコミュニティに受け継がれています。
どのような評価や影響を与えたのか? マリィ・クラークは、オーストラリア南東部のアボリジナルアートの復興において中心的な人物であり、その活動は広く評価されています。彼女は失われた文化要素を蘇らせ、現代の南東部アボリジナルアーティストの多様性を育み、促進するリーダーとして位置づけられています。クラークは、文化的な慣習へのオープンで協力的なアプローチで知られ、世代間の協力を通じて休眠状態の文化的知識を蘇らせ、テクノロジーを用いて新しい観客を現代の南東部アボリジナルアートに引き寄せています。彼女は国内外で幅広く作品を発表しており、2021年にはナショナル・ギャラリー・オブ・ヴィクトリアで、存命するアボリジナルアーティストとしては初めての個展「Maree Clarke – Ancestral Memories」が開催されました。この作品「ポッサムスキン・クローク」も同館に所蔵されており、その文化的・芸術的重要性を示しています。このクロークの復興活動は、アボリジナルコミュニティが自身の文化遺産と再接続し、植民地化の影響によって生じた喪失感を乗り越えるための癒しとインスピレーションを提供しています。アートを人々の文化的なつながりを再構築し、アボリジナルとしてのアイデンティティを肯定的に認識させる力を持つものと捉えるクラークの哲学は、コミュニティ内外に大きな影響を与えています。この作品は、日本で初めて複数のアボリジナル女性作家に焦点を当てた展覧会「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」でも紹介され、日本の観客にもアボリジナル・アートの伝統と現代性、そしてそこに込められた深い意味を伝える機会となっています。