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オブザーヴァンス (Observance)

ジュリー・ゴフ (Julie GOUGH)

ジュリー・ゴフの作品「オブザーヴァンス」について、その背景、技法、意味、そして評価と影響についてご説明します。

1.作家、作品の背景・経緯・意図

ジュリー・ゴフは、タスマニア州ホバートを拠点とするアーティスト、作家、キュレーターです。彼女は、タスマニアのアボリジナル、トラウールウェイ族の女性であり、母方の祖先はタスマニア北東部のテブリクンナ地方と深く関わっています。彼女の作品は、特にタスマニアにおける先住民の歴史、特に抑圧され、しばしば矛盾する歴史を掘り起こし、再提示することを目的としています。彼女は、植民地時代のオーストラリアを「犯罪現場」と見なし、過去の問い直しを続けています。

作品「オブザーヴァンス」は、2012年にアデレードのタンダンヤ国立アボリジナル文化研究所で開催されたグループ展「DEADLY: Between Heaven and Hell」のために依頼されて制作されました。 この作品は、ジュリー・ゴフが自身の先祖代々の土地であるタスマニア北東部のテブリクンナ地方で、数回にわたるキャンプを通して制作されました。彼女は、自身が土地に身を置く中で、無関係なハイキング客、つまり「招かれざる散歩者たち、入植者の子孫たち」がその場所を訪れる様子を撮影しました。

ゴフは、「オブザーヴァンスは侵入についての作品である」と述べています。 これは、歴史、記憶、そして祖先について深く考えることを促すものであり、先祖代々の海岸線が匿名の集団によって「地球規模化され続けている」状況を背景としています。 作品の意図は、エコ・ツーリストたちによって繰り返し妨げられながらも、物事の本質へと立ち戻ろうとする彼女の「フラストレーションの応答」を示しています。 観光客たちの絶え間ない散策は、彼女の故郷に対する「最初の侵略」を思い起こさせ、再演しているとゴフは感じています。

2.どのような技法や素材が使われているのか?

「オブザーヴァンス」は、映像作品です。具体的には、2012年に制作された17分09秒のシングルチャンネル・デジタルビデオで、ジェンマ・リーによって編集されました。 映像はHD画質、16:9のアスペクト比で、色彩と音響を伴います。 この作品は10エディション限定で発表されています。 作品の技法としては、ゴフが自身の先祖代々の土地を訪れ、その地を歩くエコ・ツーリストたちを「監視する」という形式が取られています。 これにより、観る者は、一見無害に見える観光行為の裏に潜む、植民地化の継続的な影響を感じ取ることができます。ジュリー・ゴフは、インスタレーション、彫刻、ビデオなど多様な方法と素材を用いますが、「オブザーヴァンス」では、ビデオという媒体を用いて、過去の出来事が現在にどのように響いているかを視覚的に表現しています。

3.どのような意味を持っているのか?

「オブザーヴァンス」の作品名には、「監視」と「慣習の遵守」という二つの意味が込められています。作品は、観光客が「観る」行為を通じてゴフの祖先の土地を「観察」している一方で、ゴフ自身が彼らの「侵入」を「観察」しているという重層的な視点を提示します。これは、アボリジナルが過去に奪われた土地を、現代の観光という形で再び「奪われる」状況を批判的に描き出しています。

作品は、先住民が土地から追いやられた歴史と、現代のエコ・ツーリズムがその土地を先住民から再度引き離すという状況を反映しています。 ゴフは、観光客の到着を目の当たりにし、接触を避けながらも、「その同じ場所で、それほど昔ではない並行世界で次に何が起こるかを知る、多世代にわたる不安」を感じていると語っています。 これは、植民地化が過去の出来事ではなく、現在も継続する影響を持つというメッセージを強く伝えています。 さらに、この作品は、記憶、忘却、喪失、否定といったテーマを探求し、過去の持つ力を示しています。 観る者に対して、未解決の国民的物語における自分たちの役割と、それらがいかに身近なものであるかを認識するよう促します。

4.どのような評価や影響を与えたのか?

「オブザーヴァンス」は、ジュリー・ゴフの個人的な制作活動において、最も感情に訴えかける作品の一つとして評価されています。 この作品は、ビクトリア国立美術館のような主要な公共コレクションに収蔵されており、その芸術的価値とメッセージの重要性が広く認められています。

彼女の作品は、歪められた歴史的物語に直接異議を唱え、観客に未解決の歴史における自身の役割を認識するよう促します。 「オブザーヴァンス」は、植民地時代の暴力の継続的な影響、世代間の悲嘆、そして生きた文化的なつながりの維持を深く掘り下げる、先住民女性アーティストたちの作品群の中で重要な位置を占めています。 ジュリー・ゴフの作品全体は、「国家、鑑賞者、そして自己が絡み合った歴史を認識する」ことを目指しており、隠されたり忘れ去られたりした歴史を明るみに出し、再提示するその能力が高く評価されています。

現在、アーティゾン美術館で開催されている「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」展は、複数のアボリジナル女性作家に焦点を当てた日本初の本格的な展覧会であり、ジュリー・ゴフの作品も展示されています。 この展覧会は、アボリジナル女性作家がオーストラリアのアートシーンを牽引し、国際的な現代美術の舞台で存在感を増している現状を反映しており、彼女の作品が現代オーストラリア美術の重要な一部として位置づけられていることを示しています。