ジュリー・ゴフ (Julie GOUGH)
ジュリー・ゴフの作品、「一八四〇年以前に非アボリジナルと生活していたタスマニア出身のアボリジナルの子どもたち」についてご説明いたします。
この作品は、タスマニア先住民の歴史、特に植民地化の初期における子どもたちの過酷な運命に光を当てる、深く意味のあるインスタレーションです。
作品が作られた背景・経緯・意図
ジュリー・ゴフは、タスマニアの先住民トラウルウウェイ族の女性であり、その母方の祖先には、ウォレテモエテンナーやマンナラルゲンナといった指導者がいます。彼女の家族は一八四〇年代からタスマニアのラトローブ/イーストデボンポート地域に住んでいます。ゴフは、アーティスト、ライター、そしてタスマニア博物館・美術館の先住民美術文化キュレーターとして活動しており、複数の学位と博士号を持っています。彼女の芸術活動は、タスマニア先住民に関する埋もれてしまった、あるいはしばしば相反する歴史を掘り起こし、再提示することに重点を置いています。
この作品の制作意図は、植民地時代の公文書を「刑事事件の現場」のように「探偵」や「アーカイブ家」のように精査し、確立された植民地の物語に異議を唱えることにあります。 ゴフは、見る人に対し、記憶、時間、不在、場所、表象といった、未解決の国民的物語における自分たちの役割を深く理解するよう促すことを目指しています。特にこの作品は、一八四〇年以前に非アボリジナルと共に暮らしていたタスマニア先住民の子どもたちに関する、彼女の長年の研究から生まれたものです。ゴフは、自身の祖先を含む二〇九人の子どもたちのリストを作成し、彼らの人生、居場所、そして寿命を繋ぎ合わせようとしています。多くの子どもたちが「永遠に一〇歳のまま」であったと示唆されており、これは彼らが大人になる機会を得られなかったかもしれないという痛ましい現実を表しています。作品は、一八〇〇年代初頭に先祖が故郷や家族から引き離された経験と、そこから生じる孤立感を表現しています。
どのような技法や素材が使われているのか
作品は、二〇〇八年に制作され、古い木製の椅子と焼けたティーツリーの枝を用いています。サイズは高さが二八八センチメートル、幅が六〇センチメートル、奥行きが五〇センチメートルです。 [作品詳細, 12, 14, 15]
ジュリー・ゴフは、美術、博物館、図書館、商店、庭、そして自身の祖先など、多様な源から見つけた既成のオブジェや素材を作品に取り入れることを得意としています。彼女は、オブジェが持つ来歴、内容、象徴性を重視し、それらを再構成することで元の意味合いを保ちつつ、新たな概念的な枠組みの中でその意味を拡張させます。
この作品において、古い木製の椅子は「壁の途中、不気味な場所」に固定されています。椅子は、子どもたちを「捕らえ、しかし共に、団結させている」と解釈されます。椅子は、ある者にとっては家を象徴するかもしれませんが、ここでは「飼いならす行為」や「統制」という、不自然な役割を果たしているのです。
焼けたティーツリーの枝は、「未完成のティーツリーの「槍」」であり、その足は焼かれています。アボリジナルの子どもや女性が連れ去られた際、親たちは牧夫の小屋を燃やすことで怒りと報復を示しました。この火は、怒りと報復の「武器、印」だったのです。これらの槍は、樹皮を削り取られておらず、先も尖っていない「生のティーツリーの枝」であり、「大人になる可能性を秘めた子どもたち」を象徴しています。それぞれの枝は一部が剥がされており、そのむき出しの木の部分には、ゴフが探し求めている行方不明の子どもたちの約三分の一にあたる名前が焼き印されています。
どのような意味を持っているのか
この作品は、植民地時代に家族や故郷から引き離され、行方不明になったタスマニア先住民の子どもたちの喪失と、その知られざる運命を強く示唆しています。 一八四〇年以前に非アボリジナルと共に暮らしたアボリジナル子どもたちの歴史という、後の「盗まれた世代」の政策の先駆けとなる出来事を具体的に扱っています。
ゴフは、植民地の記録から消し去られた子どもたちの名前をティーツリーの枝に刻むことで、彼らを可視化し、抑圧されてきた歴史と向き合うことを強います。作品は、「植民地文書の一面性」に異議を唱えています。
「未完成の槍」は、大人になる機会を奪われた子どもたちの満たされぬ可能性を表す一方で、「成長の約束」も秘めています。 家庭や安らぎの象徴であるはずの椅子が、ここでは「支配」と「束縛」の象徴となり、子どもたちを「囚われの身」とするものの、「共に、団結させている」という矛盾した意味合いも持ちます。焼けた椅子の足は、植民地時代の暴力と報復を暗示しています。
この作品は、ゴフ自身の祖先の歴史と、多くのアボリジナル・オーストラリア人が共有する経験とを結びつけ、先住民と非先住民双方の観客に、この「絡み合った歴史」と向き合うよう促します。
どのような評価や影響を与えたのか
ジュリー・ゴフは、オーストラリア現代美術において高く評価されている主要なアーティストであり、学者でもあります。彼女の作品は、ナショナル・ギャラリー・オブ・オーストラリアを含む多くの主要な公的コレクションに収蔵されています。
彼女の作品は、緻密なアーカイブ調査と法医学的なアプローチを通じて、支配的な植民地の物語に異議を唱え、オーストラリアの歴史と文化の再評価を促しています。
このインスタレーションの触覚的な魅力と概念的な深さは、鑑賞者を惹きつけ、オブジェの持つ意味を拡張させるものとして評価されています。作品は、アボリジナル・ピープルの「分散、禁止、排除、売買」という、胸を締め付けられるような歴史を鑑賞者に突きつけます。
「一八四〇年以前に非アボリジナルと生活していたタスマニア出身のアボリジナルの子どもたち」は、ナショナル・ギャラリー・オブ・オーストラリアで開催された第二回先住民美術トリエンナーレ「unDisclosed」で展示され、現代先住民美術の分野におけるその重要性が示されました。
ゴフの作品、そしてこの特定の作品は、過去が現在に与える影響を認識し、問い続けることで、現在進行中の「真実の語り」と和解の取り組みに貢献しています。