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ダーク・バレー、ヴァン・ディーメンズ・ランド (Dark Valley, Van Diemen's Land)

ジュリー・ゴフ (Julie GOUGH)

ジュリー・ゴフの作品「ダーク・バレー、ヴァン・ディーメンズ・ランド」について、詳細を説明します。

  1. 作品が作られた背景・経緯・意図

ジュリー・ゴフ(1965年生まれ)は、タスマニアを拠点に活動するアボリジナル系のアーティスト、作家、キュレーターです。彼女は母方の血筋がタスマニア北東部のテブリクンナ地方にルーツを持つトラウルウエイ族であり、スコットランド系の父方のルーツも持っています。ゴフの作品は、アボリジナル、特にタスマニアにおける植民地時代の、語られざる、しばしば対立する歴史を探求することを目的としています。彼女は自身の作品を通じて、歴史の暴力が現代のオーストラリア文化に与える影響に焦点を当てています。

「ダーク・バレー、ヴァン・ディーメンズ・ランド」は2008年に制作され、彼女のソロ展「AFTERMATH」(ダーウィン、2008年8月〜9月)やグループ展「The Dreamers」(ニューサウスウェールズ州立美術館、2009年7月〜12月)などで展示されました。

この作品の制作意図は、植民地接触の遺産を考察することにあります。特に、ゴフの母方のタスマニア・アボリジナル系家族と、父方のスコットランド系家族の両方がタスマニアの炭鉱で働いていた、あるいは所有していたという個人的な歴史も反映されています。 彼女は歴史を「未解決の国家の物語」と捉え、観客にこれらの物語への理解を深めてもらうことを意図しています。

作品タイトルにある「ヴァン・ディーメンズ・ランド」は、1856年に「タスマニア」と改称される以前のタスマニアの名称であり、イギリスによる植民地化と流刑植民地の歴史を想起させます。 ゴフは、植民地化によってタスマニアの先住民が経験した分散、禁止、排除、そして土地の譲渡システムがいかに入植者を優遇したかといった、不穏な歴史を明らかにすることを目指しています。

  1. 技法や素材

作品「ダーク・バレー、ヴァン・ディーメンズ・ランド」は、タスマニアのフィンガル・バレー産の石炭、ナイロン、タスマニア北ミッドランド地方の落角、タスマニアン・オークを素材として使用し、120.0×100.0×30.0cmの寸法で制作されています。

ゴフは、この作品をタスマニアの形状の「ネックレス」として表現していると記述している資料もあります。 石炭は、彼女の家族の両側がタスマニアとスコットランドで石炭採掘に関わっていたという点で、素材としてゴフが深く惹かれるものです。地下深くから抽出された石炭は、深く埋もれてきた真実を露呈させる意味合いを持っています。

タスマニアの落角(鹿の角)は、家屋の壁に飾られる狩猟のトロフィーを象徴し、植民者によるアボリジナル民族の土地からの強制的な排除を表しています。 ゴフは、タスマニアの貝のネックレスを作る伝統的な手法を、この作品では大きなスケールで適用しており、オーストラリアの共有された歴史の重みと負担を表現しています。

ゴフの制作手法は、視覚芸術、博物館、図書館、商店、庭園、そして彼女のルーツといった多様な情報源から得た「見つけられたもの」や「構築されたもの」を活用することに特徴があります。彼女は既成の素材や見つけられたオブジェクト(時にはキッチュなもの)を再利用し、木、石、海藻、樹皮、貝殻などを再構成して、元の環境と彼女自身や先祖の出会い、行動、痕跡にまつわる物語を作り出します。

  1. 作品が持つ意味

「ダーク・バレー、ヴァン・ディーメンズ・ランド」は、植民地時代に封じ込められてきたタスマニアの歴史を問い直し、語り直すことを意図しています。作品の素材である石炭は、ゴフの家族の歴史と結びつき、地中深くに埋もれた真実を浮き彫りにする象徴として機能しています。

鹿の角は、植民地主義がもたらした暴力と、アボリジナル民族が土地から追われた歴史を暗示しています。 タスマニアの形をしたネックレスという表現は、親密な伝統文化の規模を拡大することで、オーストラリアの過去の重荷を視覚化しています。

この作品は、未解決の歴史に対する記憶、時間、不在、場所、表象といった物語を通して、観客に自らの役割と、未だ解決されていない国家の物語への近さを問いかけることを目指しています。 ゴフの作品全体に共通するテーマとして、植民地化の暴力によって「囚われた」オーストラリアの姿を描き出し、公式の歴史記録と日常的なものを並置することで、植民地主義がもたらす継続的な影響に異議を唱えています。

  1. 作品の評価や影響

ジュリー・ゴフの作品は、タスマニアのアボリジナル民族の経験、特に植民地化による暴力と忘却の歴史を深く掘り下げ、再提示することで高く評価されています。 彼女は「探偵」のように公文書や口頭記録を調査し、イギリス人入植者とタスマニアのアボリジナル民族の間の植民地関係に光を当てることで、多くの人々にとって「未知の場所」である過去を再構築しています。

「ダーク・バレー、ヴァン・ディーメンズ・ランド」は、2008年の制作後、ニューサウスウェールズ州立美術館のコレクションに収蔵され、重要な作品として認識されています。

ゴフの作品は、見る人に過去の出来事を想起させ、個人と国家の記憶の間を行き来させることで、歴史を再考する機会を提供します。 彼女は、タスマニアの歴史における「意図的な空白」に対して語りかけることで、集団的記憶喪失に変化をもたらそうと試みています。

ジュリー・ゴフは、2019年にタスマニア博物館・美術館で大規模な回顧展「Tense Past」が開催されるなど、オーストラリア現代美術において重要な存在として認識されています。 彼女は、伝統的な博物館の分類学的執着に異議を唱え、自然と文化、古いものと新しいものを並置することで、介入を試みています。

彼女の作品は、アボリジナル・アートが国際的な現代美術の場で改めて注目を集めるきっかけの一つにもなっており、アーティゾン美術館で開催された「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」展でも主要な作家の一人として紹介されました。