イワニ・スケース (Yhonnie SCARCE)
イワニ・スケースの作品「ガラス爆弾(ブルーダニューブ) シリーズ III」について、ご説明いたします。
作品の背景、経緯、意図 イワニ・スケースは1973年、南オーストラリア州ウーメラ生まれのコカタ族およびヌクヌ族に属する先住民アーティストです。彼女の作品の中心には、アボリジナル・ピープルに対する植民地化がもたらした継続的な影響があり、故郷からの強制移住や子どもたちの強制的な分離といった歴史的背景を深く掘り下げています。家族の歴史が作品の中心であり、祖先の強さからインスピレーションを得て、彼らの重要な物語を共有する媒介者としての役割を担っています。特に彼女の生まれたウーメラは、かつて核実験が行われた場所であり、作品にはオーストラリアの核の歴史が色濃く反映されています。核実験は、現地の先住民コミュニティや土地の重要性をほとんど顧みずに行われました。
「ガラス爆弾(ブルーダニューブ) シリーズ」は、イギリスがオーストラリアで行った核実験、特に「ブルーダニューブ」と名付けられた爆弾に焦点を当てています。この爆弾は、1945年に長崎に投下されたアメリカの「ファットマン」を基にした、イギリス初の作戦用核兵器でした。スケースは、核実験が土地だけでなくアボリジナル・ピープルに与えた影響を表現するためにこのシリーズを制作しました。作品は、核爆弾が国土と先住民を冒涜した様子を表現しており、透明な爆弾の中に、核実験で命を落としたアボリジナル・ピープルを暗示する骨格のようなヤムイモのガラス片が封じ込められています。透明なガラスを通して、核実験の犠牲者や知られざる人々の記憶を保持し、ブルーダニューブの形状そのものが、多くの死を引き起こし、今もなお影響を与え続ける爆弾の姿を象徴しています。
技法や素材 イワニ・スケースはガラスと写真の政治的、美的可能性を探求する学際的な活動を行っています。彼女はガラス吹きを独学で習得し、自身でガラスを吹くことで作品を制作しています。ガラスは熱することで固体から液体へと変化する性質を持ち、スケースはこの特性を癒し、回復力、そして文化的なアイデンティティの再生のメタファーとして用いています。
「ガラス爆弾(ブルーダニューブ) シリーズ III」では、手吹きガラスが主要な素材として使われています。作品詳細にある「ガラス (Glass)」と「22.0×64.0×22.0cm」という情報に加え、内部には手吹きガラス製のブッシュヤム(野生のヤムイモ)が収められています。ブッシュヤムは、南西部の先住民にとって主食であり、スケースの作品では死を意味するシンボルとして使用されています。このガラス爆弾の中にヤムイモが不穏に配置されているのは、冷戦時代にオーストラリアの先住民とそのコミュニティに課せられた管理、分散、束縛を表現しています。
意味合い この作品は、オーストラリアの核の歴史と、それがアボリジナル・ピープルに与えた深い傷跡を問い直すものです。核実験による土地の破壊、放射能汚染、そして先住民コミュニティへの影響は、歴史の表舞台から隠されてきました。スケースは、美しいながらも破壊的な爆弾の形と、その中に閉じ込められた繊細なガラスのヤムイモを通して、この痛ましい過去を視覚化し、忘れ去られようとしている記憶を呼び起こします。
作品は、植民地化の遺産と政府の政策がアボリジナル・ピープルに与えた影響を、先住民の視点から浮き彫りにしています。ガラスという素材の変容性を用いて、癒し、回復力、文化的アイデンティティの再生を表現すると同時に、砕け散るガラスの破片は記憶の断片を示唆しています。
評価と影響 イワニ・スケースはオーストラリアを代表する現代アーティストの一人であり、彼女の作品は国際的なアートシーンで高い評価を得ています。ガラスという独自の技法と美学を通して、オーストラリアの隠された歴史と、アボリジナル・コミュニティが直面する継続的な苦闘を観る者に訴えかけています。
彼女の作品は、その美しさで観る者を惹きつけるだけでなく、社会変革の触媒としても機能しています。ガラスを通して、スケースは作品を制作するだけでなく、過去とその現在への影響について重要な対話を促進しています。彼女の作品は、アートが変革し、癒し、取り戻すための永続的な力を持つことの証となっています。
「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」展のように、複数のアボリジナル女性作家に焦点を当てた展覧会が日本で初めて開催されること自体が、イワニ・スケースを含むアボリジナル女性アーティストの国際的な注目度と評価の高まりを示しています。スケースの作品は、伝統文化の息づかいを感じさせつつ、脱植民地化の実践と創造性が交差する現代のアボリジナル・アートの多様な表現の一例として提示されています。
「ガラス爆弾(ブルーダニューブ) シリーズ III」は、オーストラリア国立美術館に収蔵されており、その重要性が認識されています。