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ガラス爆弾(ブルーダニューブ) シリーズ II (Glass Bomb (Blue Danube) Series II)

イワニ・スケース (Yhonnie SCARCE)

イワニ・スケースの作品「ガラス爆弾(ブルーダニューブ)シリーズII」(2015年)について、以下の通り詳細に説明します。

背景・経緯・意図

イワニ・スケースは1973年に南オーストラリア州ウーメラで生まれ、コカタ族とヌクヌ族のルーツを持つ現代ガラスアーティストです。彼女の作品は「政治的動機と感情に突き動かされている」と自身で語っており、アボリジナル民族と土地に対する植民地化の継続的な影響をテーマにしています。特に、1950年代から1960年代にかけて英豪両政府によって南オーストラリア州マラリンガで行われた核兵器実験の影響を深く掘り下げています。この核実験は、当時のアボリジナルコミュニティの重要性をほとんど顧みずに行われ、彼女の家族を含む先住民コミュニティに広範な影響を与えました。スケースは、核実験の悲惨な余波や、その結果としてアボリジナル民族に与えられた強制移住、土地からの立ち退き、そして虐待の歴史を作品を通して伝えています。彼女は家族の歴史を作品の中心に据え、祖先の経験と強さを語る「媒体」としての役割を自覚しています。作品名の「ブルーダニューブ」は、1945年に長崎に投下されたアメリカの「ファットマン」爆弾を基にした、イギリス初の作戦用原子爆弾のモデルを指しています。核爆弾の形状に美しささえ感じる透明なガラスを用いることで、破壊的な兵器と、繊細で美しいガラスの対比を生み出し、その背景にある悲劇を浮き彫りにしています。作品の意図は、この忘れ去られがちなオーストラリアの暗い歴史を明らかにし、命を落とした人々、文化、そして土地へのアクセスを失った人々への敬意を表し、現在も続く世代間の苦しみについて考える機会を提供することにあります。ガラスという素材を選んだのも偶然ではなく、核爆弾の熱によって故郷の砂漠の砂がガラスに変化したという事実に基づいています。息を吹き込んでガラスを形成する行為は、失われた人々に命を吹き込むこと、そして真実を語るための手段となっています。

技法や素材

作品「ガラス爆弾(ブルーダニューブ)シリーズII」は、2015年にガラスを素材として制作されました。 スケースは、数少ない現代オーストラリアのアーティストの中で、ガラスの政治的および美的力を探求しています。 彼女は自らガラスを吹いて作品を制作しており、必要に応じてアシスタントの助けも借ります。 ガラスは、その軽さ、透明性、そして透き通るような特性が真実を語るために不可欠な要素であると彼女は考えています。 彼女の作品では、アボリジナル民族の身体や、かつて砂漠の重要な食料源であったヤムイモなどのブッシュフードの有機的な形を模した手吹きのガラス片がしばしば用いられます。 この作品では、「ブルーダニューブ」爆弾の形状を模した透明なガラスの容器の中に、手吹きのガラス製ブッシュヤムが収められています。ヤムイモは、国の南西部の主要な食料でした。 ガラスを吹く行為は、スケース自身の息吹が作品に吹き込まれることを意味し、失われた人々を再現し、あるいは蘇らせることと表現されています。

意味

「ガラス爆弾(ブルーダニューブ)シリーズII」は、オーストラリアにおける核植民地主義と、それが先住民族コミュニティに与えた壊滅的な影響を象徴しています。 「ブルーダニューブ」という名称は、イギリスが開発した核爆弾を指しており、透明なガラスの爆弾の形状は、美しい見かけの裏に隠された大量破壊の危険性を暗示しています。 爆弾の中に収められたガラス製のヤムイモは、核実験によって命を奪われたアボリジナル民族、特に子どもたちを象徴しており、核の塵によって故郷の土地から追い出され、食料源を失い、さらに目に見えない放射能の脅威にさらされた人々の肉体や存在を表しています。 これらのガラスヤムは、単なる食料ではなく、死の象徴でもあり、壊滅的な核爆発の後、毒性のあるプルームが土地に降り注ぎ、食物がアボリジナルコミュニティを養うことができなくなったことを示唆しています。 スケースは、この作品を通して、冷戦時代にオーストラリアの先住民族とコミュニティに課せられた統制、分散、拘束を表現しています。 彼女は、核実験によって砂漠の砂が溶けてガラスに変わったという事実と、ガラスを吹く際に自身の息を使うことで、破壊された土地と、その土地に住む人々の生命を再構築しようとしています。

評価や影響

イワニ・スケースは、近年、オーストラリアを代表する最も重要な現代アーティストの一人として国際的に高い評価を得ています。 彼女の作品は、その美しさの中に隠された破壊的なメッセージが特徴であり、観る者に強い衝撃と深い考察を促します。 特に、「ガラス爆弾」シリーズを含む核植民地主義をテーマとした作品は、オーストラリアの歴史における暗く、しばしば隠されてきた章を明らかにし、多くの人々にその事実を知らせる重要な役割を果たしています。 彼女は、タテ・モダン、イコン・ギャラリー・バーミンガム、パレ・ド・トーキョー、グロピウス・バウ・ベルリンなど、世界各地の主要な美術館で作品を発表し、その影響力は増しています。 日本では、アーティゾン美術館で開催される「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」展(2025年6月24日~9月21日)にもスケースの作品が展示され、アボリジナル女性作家に焦点を当てた日本初の機会として注目されています。 彼女の作品は、美しいと同時に不穏であり、その繊細な魅力と根底にある不穏さが、鑑賞者に忘れられた歴史や失われた命について深く考えさせています。