エミリー・カーマ・イングワリィ (Emily Kam KNGWARRAY)
エミリー・カーマ・イングワリィの作品「夏の乾燥した野花 (ワイルドフラワー)」について、以下の詳細を説明します。
1.どのような背景・経緯・意図で作られたのか? エミリー・カーマ・イングワリィ(1910年頃-1996年)は、オーストラリアのアボリジニ、アンマチャリー族の出身で、正規の美術教育を一切受けていませんでした。彼女が絵画制作を始めたのは70歳を過ぎてからで、1988年から1989年頃にカンヴァスにアクリル絵具で描き始めました。亡くなるまでのわずか8年間で3,000点以上の作品を残し、国際的に高い評価を確立したアボリジナル作家の一人です。 イングワリィの作品は一貫して故郷であるアルハルクラの土地を主題としています。 彼女は、アウェリェと呼ばれる故郷への敬意を表す儀式において、砂の上や女性の体に絵や模様を描いていました。これらの伝統的な表現が、のちに彼女の絵画作品に影響を与えています。 「夏の乾燥した野花(ワイルドフラワー)」が制作された1991年は、イングワリィが豊かな色彩の作品を多く制作した時期にあたります。 この時期の作品には、彼女の土地や自然に対する深い理解と敬意が込められており、生命の循環や大地の豊かさを表現しようとする意図がありました。
2.どのような技法や素材が使われているのか? この作品は、1991年に合成ポリマー絵具(アクリル絵具)とカンヴァスを用いて制作されました。 [作品詳細] サイズは212.4×120.0cmです。 アボリジナル・アートが現代美術へと移行する過程で、アクリル絵具とカンヴァスの使用は重要な転換点となりました。 伝統的な自然顔料であるオーカーだけでは表現できないカラフルな色彩がアクリル絵具によって可能になり、アーティストの色彩感覚によって作品に個性が生まれました。また、カンヴァスは持ち運びが容易で、美術館での展示・保管に適しているという利点もありました。 イングワリィは、点描や線描といったアボリジニの伝統的な表現技法を基盤としつつも、独自の力強い筆致で色彩を重ねていくスタイルを確立しました。彼女の作品は、点や線で構成されることが多いアボリジナル・アートの中で、特に筆致の動きや色彩の混じり合いが特徴的です。
3.どのような意味を持っているのか? 「夏の乾燥した野花(ワイルドフラワー)」は、イングワリィの故郷であるアルハルクラの土地に咲く野花や、その土地の生命力、そして季節の移ろいを表現していると考えられます。アボリジニの宇宙観では、人間と自然、過去と現在が一体となった「ドリーミング(夢の時代)」という概念があり、土地は単なる物理的な空間ではなく、祖先の精神が宿る神聖な場所とされています。 この作品のタイトルにある「夏の乾燥した野花」は、オーストラリアの厳しい自然環境の中で、短い期間に咲き誇り、そして枯れていく植物の生命の循環、再生のテーマを示唆している可能性があります。イングワリィの作品は、目に見える風景だけでなく、その土地に内在する精神性や、長きにわたるアボリジニの人々の土地とのつながりを表現していると言えます。
4.どのような評価や影響を与えたのか? エミリー・カーマ・イングワリィは、アボリジナル・アートを国際的な現代美術の文脈に位置づけた最も重要なアーティストの一人として高く評価されています。 彼女の作品は、アボリジニの伝統的な文化や土地の知識を、現代的な絵画表現へと昇華させたことで、世界中の美術界に大きな影響を与えました。 1997年には、ジュディ・ワトソンとともに先住民作家として初めてヴェネツィア・ビエンナーレのオーストラリア館代表に選ばれるなど、国際的な注目を集めました。 2008年には日本で回顧展が開催され、2022年にはパリのカルティエ現代美術財団で回顧展が開催されるなど、その評価は国際的に確立されています。 2025年にはテート・モダンで大規模な回顧展が開催される予定です。 彼女の作品は、アボリジナル・アートが単なる民族学的資料ではなく、力強い現代美術として受け入れられる転換点となりました。 カラフルな色彩と抽象的なデザインは、部外者にも感覚的に受け入れられやすく、アボリジナル・アートの受容を広める上で重要な役割を果たしました。 「夏の乾燥した野花」のような作品は、イングワリィが確立した独自の表現様式を象徴するものであり、その後のアボリジナル現代美術の発展にも多大な影響を与えました。