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赤潮 (red tides)

ジュディ・ワトソン (Judy WATSON)

ジュディ・ワトソン作「赤潮」(1997年)について、その背景、技法、意味、そして評価と影響について詳しくご説明します。

この作品は、1997年に開催された第47回ヴェネツィア・ビエンナーレで展示された主要な作品の一つです。水の都ヴェネツィアにちなんで制作されたとされており、ワトソン自身の水に関する特別な記憶と深く結びついています。

作品の背景・経緯・意図

ジュディ・ワトソンは、オーストラリア北西部のクイーンズランド州にあるワアニ族の系統を汲むアーティストです。彼女の作品は、先祖代々の土地である「カントリー」との深いつながり、アボリジナルの歴史と文化、そして植民地化がもたらした忘れることのできない傷跡といったテーマに深く根ざしています。

「赤潮」が制作された意図には、アボリジナルの「隠されてきた」歴史を可視化し、人々の記憶を再構築するよう促すというものがあります。 また、作品のタイトル「赤潮」は、文字通りの海の現象である赤潮だけでなく、クイーンズランド州で発生した大規模な環境災害を暗示している可能性も指摘されています。 ワトソンの作品は、環境への深い配慮と、環境破壊が先住民コミュニティにもたらす影響への探求が特徴です。 彼女は、アボリジナルの女性たちの強さと不屈の精神も表現しています。

技法や素材

「赤潮」は、顔料とパステルをカンヴァスに用いて制作されています。

ワトソンの絵画技法は独特で、彼女はしばしばカンヴァスを地面に置いて制作します。 湿らせたカンヴァスは、下地の凹凸を取り込み、その表面に色を施していきます。 着色材としては、採取した粘土、木炭、黄土(オーカー)などの天然顔料を未加工のカンヴァスに染み込ませ、結合剤で定着させることもあれば、ウルトラマリンやプルシアンブルーなどの市販の顔料も使用します。 色は水たまりのように広がり、その後乾燥します。このように、カンヴァスを地面に置いたまま、表面は徐々に層を重ねて作られていきます。 彼女は、これらの層の中に「幽霊のような存在」としてイメージを導入します。 ワトソンは、この制作過程を「作品が私に語りかけてくる対話」と表現し、顔料を動かす中で形が浮かび上がってくる直感的な性質を語っています。 最後の層には、アクリル絵の具、パステル、オイルスティックなどを用いて、より大胆で鮮明なイメージが加えられることが多いです。

作品の意味

「赤潮」という作品名は、水環境における現象を直接的に示唆していますが、ワトソンの作品全体に流れるテーマを考慮すると、より深い意味が込められています。 赤という色は、土地の赤土や、暴力と植民地化の歴史における血を連想させ、アボリジナルコミュニティが経験してきたトラウマや苦痛を象徴していると考えられます。

ワトソンの作品の根幹にあるのは、「カントリー」とのつながりです。これは単なる物理的な土地だけでなく、歴史、精神性、そして生命の層を意味します。 彼女は、土地に残された植民地化の「消えない染み」を表現し、隠された過去を明らかにし、記憶を呼び覚ますことを目指しています。 過去の記録文書も、人間の歴史を伝える器として作品に取り入れられています。 全体として、「赤潮」は、環境問題、アボリジナルの歴史、記憶、そして文化的なアイデンティティと政治的現実といったワトソンの主要な関心事を体現していると言えるでしょう。

評価や影響

「赤潮」がヴェネツィア・ビエンナーレで展示されたことは、現代美術におけるこの作品の重要性を示しています。 ジュディ・ワトソンの作品は、オーストラリア国内外の主要な美術館に収蔵されており、高く評価されています。

キュレーターのヘッティ・パーキンスは、ワトソンの作品を「優美な罠」と評し、その「魅惑的な美しさ」が、しばしば「強力で、時に痛みを伴うメッセージ」を伝える能力を持つと述べています。 鑑賞者は作品の美しさに惹きつけられますが、その後、より深く作品を考察することで、その重層的な意味とメッセージをゆっくりと理解するようになります。 ワトソンは、そのリサーチに基づいた制作活動、そしてアーティスト、指導者、研究者、教育者としての役割が広く認識されています。 彼女の芸術は、アボリジナルおよびトレス海峡諸島の人々の回復力に対する認識と理解を深めることに貢献しています。 また、個人的および人種的な固定観念、民族的排除、文化的分類といった問題を探求し、議論を提起しています。