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バラジャラ (Baratjala)

ノンギルンガ・マラウィリ (Nongirrna MARAWILI)

この作品は、ノンギルンガ・マラウィリ氏による「バラジャラ」という樹皮絵画で、その背景、技法、意味、そして評価について詳しくご説明します。


この作品がどのような背景・経緯・意図で作られたのか、について説明します。

ノンギルンガ・マラウィリ氏(およそ1939年生まれ、2023年逝去)は、オーストラリア北東部アーネムランドのマダッラパ氏族出身の、高く評価されたヨルング族の長老アーティストです。 彼女は当初、夫であるジュタジュタ・ムヌングッル氏の樹皮絵画の制作を手伝う中で絵画を学び、2005年頃から本格的に自身の作品を描き始めました。

作品名である「バラジャラ」は、マラウィリ氏にとって個人的に重要な場所であり、彼女が幼い頃に父ムンドゥクル氏と野営したマダッラパ氏族の土地です。 彼女は、この場所の自然現象、つまり水、岩、打ち寄せる波、飛沫、そして稲妻を描くことを意図しています。 マラウィリ氏自身は、自身の絵画が伝統的な聖なるクランデザイン(ミンティ)ではないと明確に述べており、「外側の自分自身のデザイン」として、これらの要素に焦点を当てていると説明しています。

作品に見られるマゼンタ色の使用は、2017年から2018年頃に始まった彼女の革新的な試みです。 彼女は、地域で廃棄されたプリンターのインクカートリッジから残りのマゼンタインクを回収して使用しており、これは「大地を描くならば大地から得たものを使うべきである」というヨルング族の哲学を反映しています。


どのような技法や素材が使われているのか、について説明します。

「バラジャラ」の制作には、伝統的な素材と現代的な素材が組み合わされています。

まず、基盤となる樹皮は、伝統的にユーカリ(ガダイカ)の木、特にストリンギーバークから採取されます。 樹皮は雨季の後に切り取られ、火で熱して平らにされ、乾燥させられた後、内側の表面は滑らかになるように研磨されます。

顔料としては、天然の土顔料が用いられます。これは、赤や黄色の黄土、白い石膏粘土(ガパン)、そして黒色のマンガンなどで、これらは大地から採取されます。 これらの顔料には、伝統的にランの樹液や、現代ではクラフト用接着剤が混ぜられ、絵の具が作られます。

そして、この作品の特徴的な素材として、再利用されたプリンター用インク、特に廃棄されたインクカートリッジから得られたマゼンタ色が使用されています。 これにより、鮮やかなピンク色や柔らかなピンク色のグラデーションが生み出されています。

描画の技法としては、ヨルング族の伝統的な樹皮絵画の形式に基づいています。細かな線描や点描が用いられ、稲妻の閃光、岩に付着したフジツボ、激しい波しぶきなどが表現されています。 伝統的なヨルング族の芸術では、聖なるアイデンティティを表現するために、交差する細い線で構成される「ララク」や「ミンティ」と呼ばれるクロスハッチングが広く使われますが、マラウィリ氏の「バラジャラ」を含む近年の作品では、これらの聖なるデザインは意図的に避けられ、より簡素化された構図で、自然の相互作用が表現されています。 筆は、伝統的には柔らかい樹皮、木の棒、または非常に細い人間の髪の毛で作られたものが使用されます。

作品「バラジャラ」は、高さ2メートルを超える大きな縦長の樹皮絵画であり、水面に部分的に沈んだ岩に波が打ち寄せ、マゼンタの背景には稲妻が走り、波の飛沫と混じり合う様子が描かれています。


この作品がどのような意味を持っているのか、について説明します。

「バラジャラ」は、マラウィリ氏の個人的な歴史、文化、そして環境への深い理解を反映しています。

まず、この作品は、マラウィリ氏の故郷であるマダッラパ氏族の土地「バラジャラ」という場所に深く結びついています。ここは、彼女が幼少期に父と共に過ごした記憶の場所であり、彼女の作品は、この生き生きとした景観のダイナミズムを捉えています。

作品の意味の中心にあるのは、水、岩、そして稲妻といった自然の力強い要素の描写です。 マラウィリ氏の父ムンドゥクル氏の名前は、「ライトニングスネーク」(稲妻の蛇)をも意味し、このバラジャラの海底深くに棲むとされる蛇、あるいはウミヘビの名称でもあります。 この蛇が稲妻となって空に吐き出される様子や、打ち寄せる波の飛沫などが、マラウィリ氏の緻密な線描で表現され、マダッラパ氏族の重要な物語の基盤を形成しています。

マラウィリ氏は、「私が描く絵は聖なるものではない。私は父の絵を盗むことはできない。私はただ、外側の、私自身のデザイン、水、岩、強く立つ岩、そして岩に打ち寄せる波、海の飛沫を描いているだけだ」と語っています。 これは、伝統的な聖域の範囲を尊重しつつ、彼女自身の観察と解釈を通して、故郷の風景が持つ力強さや美しさを表現しようとする彼女の姿勢を示しています。彼女の作品は、土地、海、空の間の相互関係を強調し、風景が生命力に満ち、生きているものであることを伝えています。

また、廃棄されたプリンターインクを使用するという革新的なアプローチは、「大地を描くならば大地から得たものを使うべきである」というヨルング族の哲学を体現しており、現代の素材を取り入れつつも、文化的な価値観との整合性を保つという深い意味合いを持っています。


どのような評価や影響を与えたのか、について説明します。

ノンギルンガ・マラウィリ氏は、現代オーストラリアの最も重要なアーティストの一人として広く認識されており、その作品は国際的にも高い評価を受けています。

彼女は、ヨルング族の芸術の活性化に貢献し、伝統的に男性に限定されてきたクランデザインの描画許可を得ることで、この分野におけるジェンダーの壁を打ち破る上で重要な役割を果たしました。

マラウィリ氏の功績は数々の受賞歴にも表れています。彼女は、国立アボリジナル・アンド・トレス海峡諸島民美術賞の樹皮絵画部門で2回受賞(2015年と2019年)したほか、2019年にはニューサウスウェールズ州立美術館のウィン賞の一部門であるロバーツ・ファミリー・アボリジナル・アンド・トレス海峡諸島民賞も受賞しています。

彼女の作品は、国内外の主要な美術館やコレクションに収蔵されており、ロンドンのテート・モダン、ニューヨークのメトロポリタン美術館、オーストラリアのビクトリア国立美術館など、著名な機関に所蔵されています。

マラウィリ氏の芸術は、その大胆かつ洗練されたスタイル、そして文化、歴史、自然環境に対する深い理解を反映している点で特筆されます。 特に、天然顔料と再利用されたプリンターインクを組み合わせるという彼女の革新的な技法は、ヨルング族の創造的および文化的実践に大きな影響を与え、芸術的境界を曖昧にする重要な発展として評価されています。 彼女の作品は、古代のデザインを現代的な表現へと昇華させ、見る者に強い印象を与えるものとして、現代美術において確固たる地位を確立しています。 また、版画制作においても、地域における芸術表現と革新の重要な形として貢献しました。