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バラジャラ (ジャラクピに隣接するマダルパ氏族の土地) (Baratjala (a Madarrpa clan estate adjacent to Djarrakpi))

ノンギルンガ・マラウィリ (Nongirrna MARAWILI)

ノンギルンガ・マラウィリの作品「バラジャラ(ジャラクピに隣接するマダルパ氏族の土地)」について、詳細にご説明いたします。

この作品は、著名なヨルング族のアーティストであるノンギルンガ・マラウィリが二〇一九年に制作したものです。彼女は一九三九年頃、ジャーラクピ(ケープシールド)北部のダーピラで生まれ、生涯を通じてオーストラリア北東部のアーネムランドで活動しました。彼女はマダルパ氏族の一員であり、その芸術活動は自身の祖先の土地と豊かな文化遺産に深く根ざしています。マラウィリはもともと一九八〇年代に夫であるジュタジュタ・ムヌングールのアート制作を手伝う中で絵画を学び、やがて独自のスタイルを確立しました。二〇〇五年からは本格的に絵画制作を開始し、ヨルング族の芸術慣習の活性化に貢献するとともに、伝統的に男性に限定されていた特定の氏族のデザインを女性として描くことで、性別の壁を打ち破る重要な存在となりました。

作品の背景と意図として、「バラジャラ」はマラウィリの「カントリー」(祖先の土地)の一つであり、ジャーラクピに隣接するマダルパ氏族の土地で、彼女が幼少期に父親とともに野営した思い出の場所です。 彼女の作品は、この場所の環境、歴史、文化からインスピレーションを得ており、特に水、陸、空のダイナミックな相互作用、そして稲妻、打ち寄せる波、岩、サイクロン、海流といった力強い自然の力を描写しています。 彼女は自身の作品について、「聖なるものではない。父親の絵を盗むことはできない。私はただ自分の外側のデザイン、水、岩、力強く立つ岩、そして岩に打ち寄せる波、波しぶきを描いている」と語っています。 これは、奥深い物語は男性に語り継がれるべきであるという伝統を尊重しつつ、彼女自身の解釈と表現を通じて、より広い層に伝わる芸術を創造しようとする彼女の意図を示しています。

使用されている技法と素材は、伝統的なバークペインティング(ユーカリの樹皮に天然の黄土顔料で描くアーネムランド固有の技法)を基盤としながらも、革新的なアプローチが特徴です。 この作品では、天然顔料に加えて「再利用されたプリンター用インク」が用いられています。マラウィリは二〇一七年または二〇一八年頃から、地元の捨てられたプリンターカートリッジから回収したマゼンタインクを天然顔料と混ぜて使用するようになりました。 この独創的な素材の組み合わせは、彼女の芸術実践、ひいてはヨルング族の芸術文化全体にとって重要な発展となりました。 この革新は、「土地を描くなら土地を使うべきだ」というヨルング族の哲学にも合致しているとされています。 筆には、人間の髪の毛で作られた非常に細い筆「マーワット」が使われることもあります。 「バラジャラ」は、波が部分的に水没した岩に打ち寄せる様子が描かれた大きな縦長の樹皮絵画で、マゼンタの背景には稲妻が走り、波しぶきと一体となっています。 この作品では、大胆なマゼンタの色域を保持しつつ、点や縞模様の使用を抑えることで、聖なる氏族のデザインである「ミニッチ」(交差する線模様)をあえて含まず、自然の力に焦点を当てたより世俗的な視点で描かれています。

作品が持つ意味としては、「バラジャラ」は、マラウィリが幼少期を過ごした場所の自然のダイナミズムを表現しています。作品に描かれる力強い稲妻、フジツボに覆われた不動の岩、激しい波しぶき、そして目に見えない風などは、マダルパ氏族の重要な物語の基礎をなすものです。 また、バラジャラは、彼女の父親の名でもある偉大な蛇「ムンドゥクル」(雷蛇)が海の奥深くに棲み、空に稲妻を吐き出す(グイクトゥン)場所とされています。 天然顔料と人工的なインクの混用は、彼女の故郷の景色の力強さを捉え、陸、海、空の相互関係を強調しています。 マラウィリは自身の作品に聖なる意図はないと述べていますが、そのデザインには彼女自身の個性と祖先の背景が象徴的に反映されています。

この作品が与えた評価と影響は非常に大きく、ノンギルンガ・マラウィリは、現代オーストラリアで最も重要なアーティストの一人として高く評価されています。 彼女の作品は、伝統的なモチーフと現代的な感性を革新的に融合させ、現代のヨルング族のアートの可能性を広げたものと認識されています。 特に、天然顔料と再利用プリンターインクを組み合わせるという画期的な手法は、彼女の芸術実践だけでなく、ヨルング族の文化的な創造性においても重要な発展を象徴しています。 彼女は二〇一五年と二〇一九年にテルストラ国立アボリジナル・トレス海峡諸島美術賞のバークペインティング部門で受賞し、二〇一九年にはウィン・プライズの一環としてロバーツ・ファミリー・アボリジナル・トレス海峡諸島美術賞も受賞しています。 彼女の作品は、テート・モダン、クルーゲ・ルーアボリジナルアートコレクション、メトロポリタン美術館など、国内外の主要な公共および個人のコレクションに収蔵されています。 二〇一八年にはニューサウスウェールズ州立美術館で大規模な回顧展「ノンギルンガ・マラウィリ:私の心と精神から」が開催され、タルナンティ現代アボリジナル・トレス海峡諸島美術フェスティバルやシドニー・ビエンナーレなどの主要な美術展にも出品されています。

この作品が出展された「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」展は、現代オーストラリアのアートシーンを牽引し、国際的な現代美術の舞台で存在感を強めるアボリジナル女性作家に焦点を当てた、日本初の展覧会でした。 この展覧会は、一九七〇年代から八〇年代にかけて男性が中心であったアボリジナル・アートの制作において、いかにして女性たちがその立場を逆転させ、現代のアボリジナル・アート、そしてオーストラリア現代美術の方向性を形作るようになったのかを読み解くものでした。 マラウィリの作品は、このような文脈において、伝統と革新を融合させ、個人の経験と文化的アイデンティティを深く表現する現代アボリジナル女性アーティストの力強い創造性を示すものとして、高く評価されています。