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バラジャラ (ジャラクピに隣接するマダルパ氏族の土地) (Baratjala (a Madarrpa clan estate adjacent to Djarrakpi))

ノンギルンガ・マラウィリ (Nongirrna MARAWILI)

ノンギルンガ・マラウィリの作品「バラジャラ (ジャラクピに隣接するマダルパ氏族の土地)」について、その背景、技法、意味、そして評価と影響を詳細に説明します。


制作の背景、経緯、意図

この作品の作者であるノンギルンガ・マラウィリは、オーストラリアのノーザンテリトリー北東部、アーネムランドに住む先住民族ヨルングの人々の一員で、高く評価されているベテランのアーティストであり長老でもありました。 彼女は1939年頃、ジャラクピ(ケープシールド)の北に位置するダーピラで生まれ、現在はイールカラに住んでいました。 マラウィリは1980年代に亡き夫、ジュジャジュジャ・ムヌングル氏の作品制作を手伝う中で、樹皮絵画の技術を習得しました。 夫の死後も、彼女は夫の属するジャプ一族のデザインを描き続けました。

「バラジャラ」は、マラウィリが幼少期に父ムンドゥクル・マラウィリと共にキャンプをしていた、彼女のマダルパ氏族の土地にある場所の名前です。 彼女の父の名であるムンドゥクルは、「稲妻の蛇」または「水のニシキヘビ」をも意味し、バラジャラの深い海に棲むとされています。 マラウィリは2015年頃からこの場所を描き始め、特に父と同じ名を持つ大蛇が稲妻の舌を吐き出す様子に焦点を当てています。

彼女の作品は、自身の文化、歴史、環境に対する深い理解を反映しており、土地の場所を記録し、風、水、稲妻といった自然の持つダイナミックな効果を捉えることを意図しています。 マラウィリは、自身の絵画は「神聖なものではない」と明言し、「私は父の絵を盗むことはできません。私はただ外側から自分自身のデザインを描いています。水、岩、力強く立つ岩、そして岩に打ち寄せる波、海のしぶき。これが私の描く絵です」と説明しています。 これは、男性に伝えられる深い祖先の物語ではなく、彼女自身の個人的な解釈と、ヨルングの「土地を描くなら土地を使うべきだ」という哲学に基づいています。

使用されている技法や素材

ノンギルンガ・マラウィリは、ユーカリの樹皮に天然顔料を用いて絵を描く伝統的な樹皮絵画の技法を受け継いでいます。 彼女のパレットを構成する土の顔料、木炭、白は、単なる色ではなく、土地とその資源への深い敬意の表れです。

マラウィリの作品の大きな特徴は、2017年から2018年にかけて、捨てられたプリンターカートリッジから採取したリサイクルされたマゼンタインクを天然顔料と混ぜて使用し始めたことです。 この画期的な素材の導入は、彼女の制作手法において重要な転換点となり、「土地を描くなら土地を使うべきだ」というヨルングの哲学とも合致するものでした。

また、彼女は人間毛髪で作られた非常に細い筆「マーワット」を使用することもあります。 「バラジャラ」の作品では、簡素化された構図と、マゼンタの強い色域を保持しつつ、点や縞模様の使用を抑えることで、様式的な変化が見られます。 彼女は、地域全体で神聖なアイデンティティを示すために広く用いられる「ミンジ」(伝統的な斜線模様)を意図的に採用せず、代わりに土地、海、空を形成する力同士の相互作用を世俗的な視点で表現しています。

作品が持つ意味

「バラジャラ」は、部分的に水没した大きな岩に波が打ち寄せ、マゼンタ色の背景に稲妻が走り、波しぶきと一体となる様子を描いています。 この作品は、マラウィリが幼少期を過ごした氏族の土地における、特にサイクロン時の激しい天候がもたらす、風、水、稲妻のダイナミックで感情的な効果を捉えています。

作品は、彼女の祖先の土地との深いつながりと、その文化、歴史、環境に対する個人的な理解を反映しています。 ヨルングの法において「土地」という概念が「海」を含むように、作品は土地、海、空の相互関係を強調しています。 作品に描かれる稲妻は、父の名でもある「稲妻の蛇」(ムンドゥクル)が空に稲妻を吐き出すという現象に結びついています。

マラウィリは、この作品について「私は水のデザインを描いています。水が満潮時に岩に打ち寄せ、しぶきが空に舞い上がる。力強く立つ岩と、岩に打ち寄せる波、海のしぶき。これが私の描く絵です」と述べています。 彼女は、伝統的な神聖な意味合いを持つデザインではなく、自身の目に見える世界の解釈を通して、故郷の風景を力強く表現しています。

評価や影響

ノンギルンガ・マラウィリは、最も重要な現代オーストラリア人アーティストの一人と見なされており、その大胆で洗練された作品は、文化、歴史、自然環境に対する深い洞察を反映しています。 彼女はヨルングの長老であり、その作品は、現代美術の境界を曖昧にする一方で、強力な文化的結びつきを示しています。

リサイクルされたプリンターインクを伝統的な黄土色と組み合わせた彼女の画期的な手法は、彼女の芸術実践だけでなく、ヨルングの創造的・文化的実践全体において重要な進展と評価されています。

マラウィリは、最も権威あるアボリジナルアーティストの栄誉であるテルストラ樹皮絵画賞を2015年と2019年に受賞したほか、2019年にはニューサウスウェールズ州立美術館のウィン賞の一部門であるロバーツ・ファミリー・アボリジナル&トレス海峡諸島民賞も受賞しています。 彼女の作品は、ロンドンのテート・モダン、オーストラリア現代美術館、サウスオーストラリア州立美術館、クリューゲ・ルー・アボリジナル・アート・コレクションなど、国内外の主要な公的・私的コレクションに収蔵されています。 特に、2020年の「バラジャラ」作品は、テート・モダンとオーストラリア現代美術館によって共同取得され、その国際的な重要性が示されています。

彼女の作品は、シドニー・ビエンナーレ(2020年)、タルナンティ(2019年)、ニューサウスウェールズ州立美術館での回顧展(2018年)など、数々の重要な展覧会で紹介されてきました。 マラウィリの芸術は、ヨルングの伝統に深く根ざしつつも、樹皮絵画における新たな創造的表現の可能性を提示するものと見なされています。 彼女は文化的プロトコルを侵害しないよう細心の注意を払いながら、ヨルングの芸術の慣習を超えた独自の視覚言語を確立し、マダルパのアイデンティティを表現しました。

なお、本作品が展示される「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」展は、複数のアボリジナル女性作家に焦点を当てた日本初の展覧会であり、アボリジナル・アートに流れる伝統文化の息吹と、イギリス植民地時代を経てどのように脱植民地化を実践し、現代のアボリジナル・アートが形成されているのかを考察する貴重な機会となります。 近年の国際的な現代美術においてアボリジナル・アートへの関心が高まっており、この展覧会は、オーストラリア現代美術における女性作家たちの高い評価とその存在感を提示します。