ノンギルンガ・マラウィリ (Nongirrna MARAWILI)
ノンギルンガ・マラウィリの作品「ジャプ・デザイン」について、背景、技法、意味、評価と影響を詳しく説明します。
この作品は、オーストラリア北東部のアーネムランドに住む先住民族ヨルングの人々の主要なアーティスト、ノンギルンガ・マラウィリ(一九三九年頃から二〇二三年)によって制作されました。彼女は、二〇一八年から二〇一九年にかけて、天然顔料と紙、そして天然顔料と自然に空洞化した幹を用いて「ジャプ・デザイン」を制作しました。
作品が作られた背景、経緯、意図について
ノンギルンガ・マラウィリは、一九八〇年代に夫であるジュタジュタ・ムヌングルが樹皮絵画を制作するのを手伝う中で、絵画技術を習得しました。当時、女性が男性の神聖なクランデザインを描くことは異例でしたが、彼女は夫の許可を得て、夫のジャプ・クランのデザインを描き続けました。これはヨルングの歴史において、ジェンダーの障壁を打ち破る重要な転換点となりました。彼女の制作活動は、当時停滞していたヨルングのアートプラクティスを活性化させる役割も果たしました。彼女は夫のジャプ・クランのデザインのほか、自身の母であるガルプ・クランのデザインや、自身のマダッルパ・クランのデザインも描いています。作品は、自身の文化、歴史、そして周囲の環境への理解を反映したものです。
特に「ジャプ・デザイン」は、ジャプ・クランの故郷であるワンダウェイの淡水に関する神聖なデザインを描いています。これは、ビラボンと呼ばれる水たまりが連なる地形や、淡水の様々な状態、そしてジャプの魂の源を表現しています。また、このデザインには、ジャプ・クランが代々使用してきた伝統的な魚の罠も想起させる意味合いが含まれています。マラウィリは、自身の作品において明確な神聖な意図を否定しつつも、自身のアイデンティティや祖先のルーツを象徴的に表現しています。彼女は、風、水、雷といった自然現象の雰囲気を捉えることで、環境、場所、色彩を追求しています。
作品に使われている技法や素材について
「ジャプ・デザイン」には、天然顔料が主な素材として使われています。具体的には、天然の土顔料(オーカー)が紙と、自然に空洞化した木の幹(ララキッチと呼ばれる記念柱)に描かれています。伝統的に顔料は卵の黄身や蘭の樹液で混ぜられていましたが、一九六〇年代以降は水溶性の木工用接着剤がバインダーとして使用されています。
この作品の制作年は二〇一八年から二〇一九年ですが、マラウィリは二〇一八年から二〇一九年の回顧展以降、使用済みのプリンターカートリッジから得られるマゼンタインクを天然顔料と混ぜて使用するという、画期的な技法を取り入れました。これは、彼女の作品制作における新たな段階を示すもので、「ファウンド・ムーブメント」とも呼応するものです。また、「ジャプ・デザイン」に特徴的なのは、細い人毛の筆で描かれるバツ(クロスハッチング)が用いられていない点です。通常、この種のデザインではバツがほぼ必ず使われるため、これは彼女の新たな試みを示しています。
作品が持つ意味について
「ジャプ・デザイン」は、ジャプ・クランの故郷ワンダウェイの淡水の神聖なデザインであり、その地のビラボンや淡水の変化、そしてジャプの人々の魂の源を表現しています。さらに、サメのマナや雷の神ボルングといった祖先の存在にも言及しています。伝統的な魚の罠も暗示されており、土地と人々の深いつながり、そして祖先の物語が込められています。
マラウィリ自身は、自身の作品に厳密な神聖な意図があることを否定することがありますが、それでも彼女の作品は彼女自身のアイデンティティと祖先の背景を象徴的に表現しています。彼女の作品は、強力な祖先の力が土地、海、空を流れる様を描き出しています。彼女の父であるムンドゥクルは「雷の蛇」を意味し、マラウィリは自身の故郷であるバラチャラ沖の海に住む蛇と関連付けて、雷をしばしば描いています。
作品が与えた評価や影響について
ノンギルンガ・マラウィリは、オーストラリア国内外で高く評価されている重要なアーティストの一人です。彼女の作品は、シドニー・ビエンナーレ、タルナンティ、国立先住民美術トリエンナーレなど、主要な展覧会で紹介されてきました。彼女は、国立アボリジナル・トレス海峡諸島美術賞の樹皮絵画部門で二度(二〇一五年と二〇一九年)受賞し、二〇一九年にはアボリジナルアーティストにとって最も権威ある賞の一つであるテルストラ樹皮絵画賞も受賞しています。
二〇一八年から二〇一九年にかけてニューサウスウェールズ州立美術館で開催された初の個展「From My Heart and Mind(私の心と精神から)」は、国内で高い評価を受けました。彼女は、伝統的に男性のみに許されてきたクランデザインの制作に女性として携わり、ヨルングの歴史におけるジェンダーの障壁を打ち破る上で極めて重要な存在です。
彼女の作品は、伝統に深く根ざしつつも、新しい表現の可能性を探る革新的な側面を持っています。これは、西洋社会との接触によって変化しつつあるヨルング文化、特に家父長制の変化を反映しており、クランデザインの継承のあり方にも影響を与えました。
アーティゾン美術館で開催される「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」展は、複数のアボリジナル女性作家に焦点を当てており、ノンギルンガ・マラウィリはその出展作家の一人です。この展覧会は、アボリジナル女性作家たちが国際的な現代美術の舞台で存在感を高め、脱植民地化を実践している現状を示すものとして、大きな注目を集めています。