ノンギルンガ・マラウィリ (Nongirrna MARAWILI)
ノンギルンガ・マラウィリ氏の作品「ワンダウイの魚捕り網」について、背景、技法、意味、そして評価と影響について詳しくご説明いたします。
まず、この作品が作られた背景、経緯、意図についてです。 ノンギルンガ・マラウィリ氏は、オーストラリアのノーザンテリトリー準州、アーネムランド地方のマダルパ氏族出身のヨルングのアーティストです。アーネムランド地方では、ユーカリの樹皮に自然顔料で色を付けるバーク・ペインティングと呼ばれる絵画技法が主流となっています。伝統的に、特定の聖なる氏族のデザインを描く権利は男性に受け継がれてきましたが、近年、継承者の不足から女性にもこの権利が与えられるようになりました。マラウィリ氏もその一人で、彼女は画家であった夫からこれらの図像を描く権利を受け継ぎました。彼女は夫の絵画制作を手伝うことから芸術の道を歩み始め、やがて自身で絵を描くようになりました。彼女の作品は、伝統的な図像を尊重しつつも、自身の感性を表現することを意図しており、水、大地、空の間に見られるダイナミックな相互作用、例えば雷、嵐、海の潮流などを描いています。彼女の作品は、故郷の自然との密接な関係と、人々と環境の間の深い精神的つながりを示すヨルングの概念「リヤ・ダリニミール」を視覚的に表現しています。
次に、どのような技法や素材が使われているかについてです。 作品「ワンダウイの魚捕り網」は、二千十三年に天然顔料と自然に空洞化した幹、つまり木材を用いて制作されました。マラウィリ氏は、自身の周囲から採取した天然の顔料、例えば黄土、木炭、白土を使用することで知られており、これは土地とその資源への深い敬意を示しています。彼女はこれらの顔料を革新的に応用し、しばしば伝統的なヨルングのパターンや交差模様と組み合わせています。特に二千十八年以降、彼女の制作においては、 sacred white ocher と呼ばれる聖なる白土を、使用済みのプリンターカートリッジから採取したマゼンタインクと混ぜるという革新的な方法が用いられるようになりました。この混合技法は、ヨルングの創造的、文化的実践において大きな変化をもたらしました。彼女は樹皮画や版画、そしてセレモニーで用いられる彩色された中空の丸太であるララキッチなど、多様なメディアで作品を制作しています。
続いて、どのような意味を持っているのかについてです。 作品名にある「魚捕り網」は、アボリジナル文化において非常に重要な意味を持っています。魚捕り網は、食料生産、労働、交易、そして儀式に用いられてきた、世界でも最も古い人類が作った建造物の一つとされる古代の構造物です。そのデザインのシンプルさには古代の知恵が反映されており、季節や水位の変化に適応できるようになっています。アボリジナル民族の伝統では、魚捕り網の創造は、祖先の創造主であるバイアメが網を川に投げ入れたことに由来するとされたり、ペリカンのくちばしのような自然の形から着想を得たとも言われています。魚捕り網は、アボリジナル民族の生活と食料源との密接な絆、そして彼らの環境に対する深い知識を象徴しています。作品に示される「ワンダウイ」という場所は、二人の精霊、ジラウィットとニャルンがグリヤラヤラ川に魚捕り網(ダワル)を作った場所として言及されており、マラウィリ氏の氏族にとって、祖先の物語と伝統的な漁業の習慣に結びつく文化的に重要な場所であることを示唆しています。マラウィリ氏の芸術全般が、風景のダイナミズム、土地、海、空の相互作用、そして人々と場所の間の相互関係を強調していることから、この魚捕り網のモチーフもまた、豊かな文化的遺産、祖先の物語、そして「カントリー(土地)」への実践的かつ精神的なつながりを表現しています。
最後に、どのような評価や影響を与えたのかについてです。 ノンギルンガ・マラウィリ氏は、高く評価されたヨルングのシニアアーティストであり長老でした。彼女はアーネムランドにおけるバーク・ペインティングの革新者として注目され、独自のモチーフや革新的な技法を用いて、この芸術形式の可能性を切り拓きました。彼女の作品は、伝統的なモチーフの革新的な使用と現代的なセンスが特徴であり、オーストラリア国内および国際的な観客を魅了してきました。特に、プリンターカートリッジからのマゼンタインクの使用を含む彼女の実験的な取り組みは、ヨルングの創造的および文化的実践全般に大きな影響を与えました。彼女の作品が「彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術」のような重要な展覧会で紹介されていることは、彼女の高い評価を裏付けています。この展覧会自体が、日本で初めて複数のアボリジナル女性アーティストに焦点を当てたものであり、彼女たちの国際的な評価と現代アボリジナルアートへの関心の高まりを示しています。マラウィリ氏の作品は、アデレードの南オーストラリア州立美術館やメルボルンのヴィクトリア国立美術館といった主要な機関に収蔵されています。